祇園祭のハイライトの一つとなる2023年7月17日の前祭山鉾巡行にて、龍村美術織物が復元新調を手掛けた「放下鉾」の下水引(したみずひき)が一般披露されます。
江戸時代に制作された下水引は、この度京都で西陣織などを手がける龍村美術織物と、その職人の手によって、2015年から8年の制作期間をかけて本来の姿に復元新調されました。今回の特集記事では、蘇った「下水引(したみずひき)」に込められた龍村美術織物の想いに迫ります。
下水引(したみずひき)とは?
祇園祭の鉾では、屋根の回りの梁から四本の化粧柱を囲み幕が掛けられますが、中でも欄縁(らんぶち)のすぐ下に掛けられ、胴掛、前掛などの上部を飾るものを下水引と呼びます。祇園祭のなかでも一つのハイライトとなる山鉾巡行を行う内の一つ「放下鉾」の下水引は、約244年前に制作されたとされ、江戸時代に、画家・俳人の与謝蕪村(1716~1784)が下絵を描き、絢爛豪華な京刺繍が施された懸装品です。
原品の下水引は、江戸時代に作られてから現在に至るまで、祇園祭とともに歴史を歩んできました。そしてこの度龍村美術織物が復元新調を行い制作当時の姿に蘇らせ、今年の山鉾巡行時に一般披露されることになりました。
北面
東面
西面
南面
復元新調された下水引は原品同様に4枚で1組になっており、与謝蕪村が描いた中国の文人らが「琴」「囲碁」「書」などをたしなむ図柄を、時代考証や裏地の調査によって欠損した部分の色彩やデザインをも明らかにし、職人の手作業による総刺繍で再現されています。
織物を通じて伝える、京都の伝統と心意気
龍村美術織物は、祇園祭の舞台である京都で1894(明治27)年に創業して以来、“独創と復元” “最高之品質”を基本精神とし「美術織物」への想いを貫いてきました。その意思は、今回の記事で紹介している放下鉾の下水引の復元新調にも共通しています。京都の伝統を受け継ぐ職人や放下鉾保存会とも密に関わった、代表取締役社長・龍村育に制作に込めた想いを訊いてみました。
― 下水引の制作はどのような経緯で行われたのでしょうか。
龍村美術織物代表取締役社長・龍村育(以下、龍村):
平成2年に下水引の新調を行って以来、龍村美術織物では、ほぼすべての懸装品の修理・新調・復元をご依頼頂いています。
とくに、平成元年に龍村美術染織繍技術保存会が発足してからは祇園祭とより密接なお付き合いを行っており、それ以前からのご縁もあって、数町内の山鉾の懸装品の依頼を受けています。
今回の下水引の復元新調は、2015年から約8年間かけて、2年に一枚というペースで完成させました。
― 1779年に制作された織物を復元するのは一筋縄ではなかったと思います。どのようなことを工夫されたのでしょうか。
龍村:同時代に描かれていた文人画をもとに時代考証を行いました。刺繍部分の裏側を観察し、原色を採取しました。
具体的には、制作にあたって製作当時の技法や図柄、配色の調査を綿密に行い、縫い目の隙間での色確認や裏面から配色や糸使いなどを調べ上げ、監修者とご町内等の関係者と検討を重ね制作に取り掛かるというものでした。
刺繡のあらゆる技術を用いて、時代考証、文化財復元監修のノウハウを用いた点はやはり私たち強みを活かせたのではないかと思います。
― 下水引のサイズはどのぐらいのものでしょうか。
龍村:東西面が幅3,500×高さ745、北南面が幅2,710×高さ745(mm)となります。
龍村美術染織繍技術保存会加盟の2名が職人として刺繍の工程にあたりました。
― なにか制作にあたって、裏話はありますか?
龍村:人物の目の部分は何回もやり直していますので、ご注目ください。
― 一般公開前に披露した放下鉾保存会の方々や、地元や国内の報道関係者の反応はどのようなものでしたか。
龍村:放下鉾保存会からは「満足の出来である。50~60回の検討会で喧喧諤々議論して出来上がったので感動もひとしお。7月17日の巡行が楽しみ。龍村美術織物に任せてよかった。人物の目の部分は苦労していたがそのかいあって、非常に良い出来である。」とのコメントをいただけています。
― 一般公開前の発表会でよく聞かれた内容はなんでしょうか。
龍村:「すべて刺繍で作られているのか?」ということですね。地(グランド)部分も刺繍でかつ本金糸を使用しています。また、総事業費についても質問がありましたが、1億8,000万円となります。
― 伝統を次世代に伝えていくことの使命や意義についてはどう考えていますか。
龍村:今後も祇園祭の懸装品復元新調や修復をご依頼いただくことで、弊社の技術力レベルアップのほか、特に若い職人に任せることで技術継承も行っていきたいです。日本固有の文化を守っていきたいという全国の方々の熱い気持ちに応えていきたいと思います。
― 今後どういう方々や世代に「和の躍動」を伝え、繋いでいきたいと考えていますか。
龍村:若い世代、海外の人々ですね。
「前祭(さきまつり)山鉾巡行」は7月17日 実施
1,000年以上の歴史を持つ日本三大祭りの一つである京都の「祇園祭」。今年はコロナ禍以前と同規模で開催が予定されており、多くの国内外からの観光客も見込まれています。
祇園祭の一ヶ月(7月1日~31日)にわたる開催期間のなかでも前半の山場となる前祭(さきまつり)山鉾巡行は7月17日(月・祝)に行われ、今回の下水引も広く一般に披露されます。変化し、移りゆく世の中のなかで京都の町衆の心意気を繋いで巡行される放下鉾、そしてそれを彩る「下水引」にぜひご注目ください。
◼️ 関連商品
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◼️ 一般公開概要
前祭山鉾巡行日時:2023年7月17日9:00~各町くじ順により順次出発
巡行開始予定地点:四条烏丸交差点付近
公益財団法人祇園祭山鉾連合会公式サイト:http://www.gionmatsuri.or.jp/
京都市観光協会オフィシャルサイト「祇園祭」ページ:https://ja.kyoto.travel/event/major/gion/