織物における「美術織物」という新しい分野を確立した龍村美術織物。
初代龍村平藏から受け継がれた高度な復元技術と、独創的な意匠で、日本各地に所蔵されている重要な織物の復元、そしてオリジナルの美術織物の制作をおこなってきた。
古い織物を研究・復元し、それによって得たものをもとに新しい独自の織物を生み出す。
「独創」と「復元」。初代平藏より連綿と受け継がれた基本精神である要素を軸に、「温故知新を織る」-その営みを紐解く。
「織の美」― 唯一無二の独創性を象徴する美的表現
龍村の美術織物の特長は、緻密でありながら大胆さを兼ね備えた美的表現にある。
世界中から身近な日常まで、自身達が心躍らされた様々なモチーフを積極的に図案化し、大胆かつ繊細な構図、カラー、そしてそのバックグラウンドにあるストーリーが独特であるところが、見る者を魅了するのだ。
たとえば初代龍村平藏は、従来の帯にはない立体感と色彩にこだわり、糸の性質を利用することで文様を立体的に現した。本来織物はタテ糸とヨコ糸が交差(組織)した立体物で、割り切れる偶数の世界だが、そこに「美」というもう一つの糸を織り込み、割り切れない奇数の世界とするのが「美術織物」なのだ。
初代は、帯に奥行きと彩りを加えた「高浪織」を開発したことで知られている。
「高浪織」とは、織物による立体的な造形の基本となった技法で、明治39年に実用新案登録されている。膨織(ふくれおり)の一種でヨコ糸に強く撚って糊付けした糸を織り込み、その後、蒸気熱で糊を取り、糸の撚りが戻ろうとする作用で織物の表面に凹凸を生じさせる技法。レリーフのように盛り上がった草花などの文様には、織物とは思えない不思議な煌めきが浮かぶ。
さらに初代は、「機械によるゴブラン織」により、印刷の原理を応用し写実的な文様を織り出すことに成功。世間の注目を集めた。通常ゴブラン織とはヨーロッパで手織りされた綴織(つづれおり)の総称だが、平藏が開発したゴブラン織りは全く異なる。色の三原色に発想を得てタテ糸を三重以上、ヨコ糸を二色以上用いそれらを様々にジャカードを通して組み合わせ、あたかも多彩色なゴブラン織りのような文様に織りあげるのだ。
圧倒的な「織りの総合力」が成し得る復元
「織の総合力」とは、図案取材・作成、原材料選定・調達、組織設計、織技法、仕上げなど、織りに関する全ての知識、技量を指す。復元にはそれら全てにおいて高次元のレベルが必要不可欠となる。
古代裂復元の第一人者として広く知られた初代は、名物裂、上代裂、コプト裂など様々な織物の研究と復元に心血を注いだ。その結果、大正12(1923)年、画家の黒田清輝、東京美術学校(現東京藝術大学)の正木直彦校長らが設立した「織寳(しょくほう)会」の依頼により、前田家伝来の名物裂二十種、その他の諸家所蔵の七十種を復元した。
・名物裂:近世(室町~江戸)の裂。国宝早雲寺文台裂(こくほうそううんじぶんだいぎれ)、名物鹿紋有栖川(めいぶつしかもんありすがわ)。
・上代裂:おもに法隆寺裂、正倉院裂など。四天王狩猟文錦(してんのうしゅりょうもんにしき)、御物赤地鴛鴦唐草文錦(ぎょぶつあかじおしどりからくさもんにしき)。
・コプト裂:エジプトの初期キリスト教徒であるコプト人により制作された裂地。埃及綴鸚哥瑞華文(こぷとつづれいんこずいかもん)など。
以後、その実直な研究姿勢は四代にいたるまで受け継がれ、龍村の精神の根底に流れつづけている。古の織物を原料から徹底的に研究して得た知識、あらゆる技法を知り尽くして得た技術。まさに復元は織の総合力無くして有り得ないのだ。