10月28日から奈良国立博物館にて開催されるの第75回正倉院展。毎年数多くの貴重な正倉院宝物が公開されていますが、今回は龍村美術織物とも縁が深い「赤地鴛鴦唐草文錦大幡脚端飾(あかじおしどりからくさもんにしきのだいばんのきゃくたんかざり)」が披露されます。
初代龍村平藏が大正時代末期に、正倉院宝物裂の研究に着手して以来、龍村美術織物と正倉院宝物は切っても切れない関係にあります。今回公開される宝物を通してその関係についてお伝えしていきます。
正倉院展とは?
正倉院宝物が納められている宝庫は東大寺の正倉(元々穀物などを収納する倉)であり、奈良時代に建てられたと考えられています。その中には、聖武天皇の御遺愛品を中心に、東大寺での法要にまつわる品々や、東大寺の造営に関連するものなど、様々な経緯で宝物が納められてきました。
これらの宝物は毎年秋に点検が行われ、それに合わせて一般公開が実施されるのが正倉院展になります。最新の研究結果を反映したものや、話題性の高いものが選ばれ、時代を越えてその技術や美しさを目にすることが出来ます。
「赤地鴛鴦唐草文錦大幡脚端飾」とは?
第75回正倉院展に出展される数々の宝物の内の一つに「赤地鴛鴦唐草文錦大幡脚端飾」があります。これは灌頂幡(かんじょうばん)という旗から下がる幡脚(ばんきゃく)の下の端につけられていた飾りになります。756年に崩御された聖武天皇の一周忌齋会(さいえ)にて使用されたものであり、灌頂幡自体が全長約15mにも及ぶという巨大なものであったため、下端の飾りであるこの「赤地鴛鴦唐草文錦大幡脚端飾」も大変大きいものになります。赤地の錦の上には、蓮華唐草(れんげからくさ)と、それに乗る一対の鴛鴦が表され、当時の華麗な文様を伺い知ることが出来ます。
龍村美術織物と正倉院宝物
龍村美術織物では、1894(明治27)年の創業以来、”復元と創作”を根底に織物づくりに取り組んできました。その根幹となるものの一つに、正倉院宝物の研究、復元があります。初代龍村平藏は、1924(大正13)年に帝室博物館(現在の東京国立博物館)からの委嘱により、正倉院にて古代裂(こだいぎれ)の調査を行います。その中の一つには「赤地鴛鴦唐草文錦大幡脚端飾」があり、研究の後、復元を果たすことになります。
復元の目的は、そのものが生み出された時の状態を再現することにあります。古の織物を原料から徹底的に研究して得た知識、あらゆる技法を知り尽くして得た技術。これらが備わって初めて成される復元は、「織の総合力」が問われるものであり、今日の龍村美術織物までその精神は連綿と受け継がれています。
復元から製品化へ
復元を果たした「赤地鴛鴦唐草文錦大幡脚端飾」は、正倉院に納められている宝物の中でも、文様構成の見事さ、美しい配色と織技の精巧さにおいて、大変優れたものになります。龍村美術織物では、この原品の華麗で鮮やかに彩られた文様を、様々な製品にて多くの方に触れて頂けるように、鴛鴦唐草文錦(おしどりからくさもんにしき)として生地を織り上げました。
織物の質感をより感じて頂ける経錦(けいきん)の手法にて作られた生地は、お茶道具や敷物、様々な雑貨小物などの形で、皆様の下へお届けされています。古代から現代に蘇った正倉院宝物が秘める、繊細さ、美しさをぜひお手元で存分にお楽しみ下さい。
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